2019年08月24日:「犬猿短歌」に見る詩的言語の創造、及び「草の三段論法」について

1.「犬猿短歌」という短歌自動生成の試み

 星野しずるの犬猿短歌(けん-えん たんか、以下「犬猿短歌」といいます。)がtwitter上で話題となっていましたので、このことについて考察してみたいと思います。

 この犬猿短歌とは、煎じ詰めて言えば「短歌を自動生成するスクリプト」ということになります。まず、“犬”に該当するアルゴリズムが、短歌の複数のレシピ(型)の中から、一つを無作為に抽出します。次に、“猿”に該当するアルゴリズムが、そのレシピに当てはまるような単語を無作為に抽出して当てはめることで、「いかにもな短歌」を生成することができるようになります(ちなみに、「星野しずる」さんとは、この犬猿短歌を発表する架空の女性歌人、という設定とのことです)。

 この犬猿短歌のスクリプトを実際に作成したのは、ブログ歌人の佐々木あららさん(Twitter: @sasakiarara)という方です。佐々木さんは、どうしてこのようなスクリプトを作成したのでしょうか。Q&Aにその理由が書かれていますので、引用してみたいと思います。

Q.これ、そもそもなんのためにつくったんですか?
 僕はもともと、二物衝撃の技法に頼り、雰囲気や気分だけでつくられているかのような短歌に対して批判的です。そういう短歌を読むことは嫌いではないですが、詩的飛躍だけをいたずらに重視するのはおかしいと思っています。かつてなかった比喩が読みたければ、サイコロでも振って言葉を二つ決めてしまえばいい。意外性のある言葉の組み合わせが読みたければ、辞書をぱらぱらめくって、単語を適当に組み合わせてしまえばいい。読み手の解釈力が高ければ、わりとどんな詩的飛躍でも「あるかも」と受けとめられるはずだ……。そう考えていました。その考えが正しいのかどうか、検証したかったのが一番の動機です。

星野しずるの犬猿短歌 犬猿短歌Q&A(最終閲覧日:2019年8月24日)、下線部引用者
https://web.archive.org/web/20160213220854/http://www17.atpages.jp/sasakiarara/sizzle/qanda.html

 引用文中に「二物衝撃」という用語が登場していますが、これは「異なった二つの言葉を組み合わせることで斬新なイメージを生み出そうとする手法(前掲ウェブサイトから引用)」を指します。

 つまり、佐々木あららさんは、「異なった二つの言葉を組み合わせることによって斬新なイメージを生み出そうとする手法に依存した、雰囲気や気分だけの『それっぽい』短歌」に対するアンチテーゼとして、この犬猿短歌のスクリプトを作成したということが分かります。