2020年12月05日:“未来を動かし続ける”Nike Japanの覚悟について(1/3)

 2020年11月28日に、Nike Japanが配信した一本の動画が、twitterを始めとするSNS上において大きな反響を受けています。

 動画は、「動かしつづける。自分を。未来を。 The Future Isn’t Waiting.」というタイトルの、2分間のコンテンツとなっています。3人の10代の少女たちを物語の主人公に据え、彼女たちが、差別やいじめといった問題を、サッカーを通じて乗り越え、自己実現を果たしていく――というシナリオとなっています。

 この動画は、現在(2020年12月5日時点)においても非常に大きな注目を集めています。「日本における人種差別」という、ともすれば見過ごされがちな問題に光を当てた動画を高く評価する一方で、一部のナショナリストからは、「この動画は日本を貶めるコンテンツではないか」という批判の声が上げられており、さながら“炎上”の様相を呈してしまっています。

 本稿は、以下の2つの点について考察することを目的としています。

  1. どうして、この動画は“炎上”してしまったのか
  2. 「この動画が炎上していること」を、どのように評価するべきなのか

1.どうして、この動画は“炎上”してしまったのか。

 まずは、動画が生み出されたバックグラウンドについて確認してみましょう。このとき役立つのは、「人種差別」という問題について、Nikeが企業としてどのようなキャンペーンを行ってきたのか、考えてみることです。

 インターナショナル・メディアを“SEVENTIE TWO”には、「『ナイキ』が差別やいじめを受ける10代の女子に着目したフィルム『動かしつづける。自分を。未来を。』公開」というタイトルの記事が、2020年11月28日付けで公開されています(https://www.seventietwo.com/ja/news/Nike-YouCantStopSports、2020年12月5日閲覧)。

 この記事の中では、Nike Japanのシニアマーケティングディレクターではバーバラ・ギネ氏のコメントが掲載されています。このコメントは、本件の問題を考えるに当たって非常に示唆に富むため、以下のとおり引用します。

「ナイキは長い間、少数派の声に耳を傾け、支え、ナイキの価値観にかなう大義のために意見を述べてきました。スポーツにはより良い世界がどのようなものかを示し、人々の力を合わせ、それぞれのコミュニティでの行動を促す力があると考えています」

前掲ウェブサイト記事。2020年12月5日閲覧

 上記に引用したギネ氏のコメントを勘案すれば、今回の動画では、「少数派の声」として「日本における被差別者」が取り上げられた、ということが窺えます。

 ところで、「ナイキの価値観にかなう大義」とは、具体的には何を指すのでしょうか。「大義」といえば聞こえは良いですが、余りにも抽象的過ぎる言葉については、その内容を具体的に特定してみる必要があります。

 と、ここで役に立つのが、“SDGs”という理念を考えてみることです。

 SDGsとは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のイニシャルを取った略称であり、2015年9月に開催された国連のサミットにおいて採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です(「SDGsとは?」、https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html、2020年12月5日閲覧)。

 SDGsは、17のゴールと、そのゴールを実現するための169のターゲットから構成されています。17のゴールについては、以下のとおりです。

(1) No Poverty(貧困をなくそう)
(2) Zero Hunger(飢餓をゼロに)
(3) Good Health and Well-being(すべての人に健康と福祉を)
(4) Quality Education(質の高い教育をみんなに)
(5) Gender Equality(ジェンダー平等を実現しよう)
(6) Clean Water and Sanitation(安全な水とトイレを世界中に)
(7) Affordable and Clean Energy(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)
(8) Decent Work and Economic Growth(働きがいも経済成長も)
(9) Industry, Innovation and Infrastructure(産業と技術革新の基盤をつくろう)
(10)Reduced Inequalities(人や国の不平等をなくそう)
(11)Sustainable Cities and Communities(住み続けられるまちづくりを)
(12)Responsible Consumption and Production(つくる責任つかう責任)
(13)Climate Action(気候変動に具体的な対策を)
(14)Life Bellow Water(海の豊かさを守ろう)
(15)Life On Land(陸の豊かさも守ろう)
(16)Peace, Justice and Strong Institutions(平和と公正をすべての人に)
(17)Partnerships For the Goals(パートナーシップで目標を達成しよう)

 上記に掲げた17のゴールは、ひとつの組織・事業体が網羅的に実現することを求められているものではありません。その組織・事業体の規模・位置付け・専門領域に応じて、貢献できそうなゴールを選び、そのゴールの実現に向けて取組を進めていくことが求められます。

 Nikeの掲げる「大義」がSDGsに相当するとき、NikeはどのSDGsを採用しているのでしょうか。Nikeのウェブサイト(https://purpose.nike.com/sustainable-development-goals-sdgs。2020年12月5日閲覧)では、NikeがSDGsに関して貢献できる分野として、以下のゴールを特定しています。

(3) Good Health and Well-being(すべての人に健康と福祉を)
(5) Gender Equality(ジェンダー平等を実現しよう)
(8) Decent Work and Economic Growth(働きがいも経済成長も)
(12)Responsible Consumption and Production(つくる責任つかう責任)
(13)Climate Action(気候変動に具体的な対策を) (17)Partnerships For the Goals(パートナーシップで目標を達成しよう)

 さて、動画を前提として考えてみれば、「(10)Reduced Inequalities(人や国の不平等をなくそう)」がエントリーしていても良さそうなものですが、上記のリストの中には含まれていません。

 もちろん、上記に掲げるSDGsの目標設定は、飽くまでNikeの目標設定であり、日本法人であるNike Japanの目標設定ではないため、法域に応じてグラデーションがある可能性も否定はできません。 少なくとも、スポーツウェアの企業である以上、Nikeは当然に「(3) Good Health and Well-being(すべての人に健康と福祉を)」に貢献することができます。そのため、おそらくギネ氏の述べる「大義」とは、「より良い世界がどのようなものかを示し、人々の力を合わせ、それぞれのコミュニティでの行動を促す力」としてのスポーツを促進することと、このSDGsのゴール(3)との複合体とのことを指しているのではないか、と考えられます。

続く

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