2020年12月06日:“未来を動かし続ける”Nike Japanの覚悟について(2/3)

続き

 さて、「人種差別」という問題に関するNikeのスタンスについては、これまでに見てきたとおりです。

 その上で、今回の動画がなぜ炎上してしまったのかについて、改めて考えてみましょう。このときに参考となるのが、Newsweek Japanに2020年12月3日付けで掲載された古谷経衡氏の論考「ナイキCMへ批判殺到の背景にある『崇高な日本人』史観」です(https://www.newsweekjapan.jp/furuya/2020/12/cm.php、2020年12月5日閲覧)。

 古谷氏は、論考の中で、以下の点を指摘しています。

  1. 今回の動画に対する日本人ユーザーからのコメントのほとんどが「ネット右翼」によるものである。
  2. 「ネット右翼」の主張は、「日本には欧米のような人種差別問題は極めて少ないのに、ナイキのPR動画ではあたかも日本でも欧米同然の在日コリアンに対する人種差別が行われているような風潮を惹起させ、日本全体のイメージを貶めている」ということを基本線としている。
  3. ところで、このような「ネット右翼」の主張は“「崇高な日本人」史観”というフィクションに由来するものであり、日本には人種差別の問題が依然として根深く残っている。

(本稿では、「ネット右翼」という言葉は利用せず、「ナショナリスト」と言い換えています。「ネット右翼」、または「ネトウヨ」というよく聞く表現は、ともすれば蔑称として用いられ、相互理解の妨げになり得るためです。)

 この論考で重要なのは、2の点です。2は、論考の中では箇条書きで示されている事項、つまりは、「多様性を持ったナショナリストの主張」の大雑把な要約です。

 そして、「要約」という性質を持つ以上、意図の有無にかかわらず、事実の捨象が行われてしまいます。2に示されるナショナリストの主張は、精査してみれば以下に分解できるのではないでしょうか。

A そもそも我が国には「人種差別」は存在しない(「人種差別」の有無について)。
B 我が国に「人種差別」があることは認めるが、欧米における「人種差別」と比較すれば、規模は小さい(「人種差別」の量について)。
C そもそも「人種差別」は悪いことではない(「人種差別」の是非について)。
D 「人種差別」は悪いことではあるが、我が国における被差別者については、差別されるだけの相当な理由があるため、問題にならない(「人種差別」の質について)。

 動画を批判する人たちも、その批判に反駁する人たちも、おそらくは上記のA~Dの項目のどれか(又はその複合体)を前提として主張を行っていると考えられます。

 このうち、A及びCについては、動画に対する批判の中でも極論に相当するのではないかと考えられます。日本は2015年に人種差別撤廃条約に加入していることを踏まえると、古谷氏の論考を俟たずしても、A及びCの主張を展開することは難しいでしょう。

 すると、2に要約されている「ナショナリストの主張」は、概ねB若しくはD、又はその複合型の主張である、ということができそうです。しかしながら、「他国と比べて相対的に規模が小さい」ことをもって「人種差別が残存して良い」ことにはなりませんし、「我が国における被差別者については、差別されるだけの相当な理由があるため、問題にならない」という主張は、差別を行う側の常套句に過ぎません。

 さて、古谷氏の論考で注目すべき点はもう一つあります。Nike Japanの動画における被差別者の中には、在日コリアンの少女に限らず、ネグロイドとのハーフの少女もいます。

 にもかかわらず、古谷氏の論考は、在日コリアンに対する差別を中心テーマに据えています。これは、古谷氏の論考自体が「ネット右翼」からの批判を受けての構成となっているためですが、すると、「ナショナリストたちは、なぜ特に在日コリアンに対して反応を起こすのか」という点が問題として立ち現れます。

 このことに焦点を当ててみれば、今回の動画の“炎上”における、我が国の人種差別の特徴が現れてきます。すなわち、日本人のナショナリストたちが「人種差別」の問題に関して特に過剰な反応をするとき、念頭に置かれている「被差別者」とは、「在日コリアン」に限定されているのではないか、という点です。

 このような考え方を採用してみれば、Nike Japanの動画の“炎上”を、「在日コリアンに対する我が国の差別」というコンテクストから位置付けることが可能となります。2006年の「在日特権を許さない市民の会」の発足を皮切りに、韓国・朝鮮人に対する「人種差別」の一つの延長線上に、今回のNike Japanの動画の“炎上”があるのではないでしょうか。

続く

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする