7.1.錬成と科学

 第三講から第六講まで、文様とそれに関与した様々な魔術について取り扱ってきました。文様に関する考察はこれまでで一旦終了とし、今回からは「錬成」について取り扱ってゆきたいと思います。

 そもそも「錬成」という概念は自然科学の黎明期に生まれました。代表的なものとしては錬金術があげられるでしょう。自然科学の基礎を作ったヨーロッパでも、錬金術の長い下地が存在していました。有名な例として、ドイツ・ドレスデン地方における白磁が上げられるでしょう。当時のザクセン公は、中華王朝から輸入されてくる白磁に心を打たれ、その国産化を画策しました。この白磁の産出にも錬金術師が関わっています(珪藻土を利用して白磁を作るという発想は、この錬金術師の貢献によるものです)。

 このような錬金術の経緯を鑑みてみると、「錬成」とは「体系化されていない、原初的な科学(化学)」と見なしたほうがよいかもしれません。

 そうすると、これまで「魔法」に限定して形成していた種々の設定とは、また違った観点から設定を織り込む必要があります。それこそすなわち、「和製ファンタジー世界の中で、どの程度まで科学(化学)法則を通用させるか」といった問題に繫がるからです。

 この問題に踏み込んでみる前に、まずは錬成において魔法が果す役割について考えてみましょう。

 「錬成」において一般的に想定されている観念では、「素材同士を結び付けて新しい素材(もしくは製品)を作り上げる」というモデルが成り立っているように思います。たとえば、「木材」という材料と「水」という材料を結びつけて、「パルプ(紙)」という新しい素材を作り上げる、といった体裁です。

 このようなモデルにおいて、「魔法」が貢献する範囲はどこに存するでしょうか。おそらくは「結び付ける」という行為に「魔法」が関与するのではないでしょうか。上記にあげた「パルプ(紙)」の例にしても、実際の生成には多大なエネルギーや時間が必要になります。こうしたエネルギーの代替として、「魔法」が介入する余地があるのではないでしょうか。

 「魔法」を介在させた「錬成」をモデルにしてみます。

物質A + 物質B ⇒(魔法による反応)⇒ 物質C

 おそらくは上のようなモデルを描くことが可能になるはずです。そしてこの例は、「魔法は単に、物質同士の化合を促進しているにすぎない」ということも暗示しています。

 したがってやはり、科学(化学)法則のある程度通用している世界観を設定することが、「錬成」の登場にとっては必要になってくるでしょう。

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