6.6.魔罠(もしくは瘴気)

 第六講の最後に取り扱うのは、「魔罠」です。聞きなれない単語でしょうが、筆者の造語です。後になってもっと的確な言葉として「瘴気」を思いついたのですが、「瘴気」だといささか魔術から遠のきがちになるため、ここでも引き続き「魔罠」に統一して話を進めます。

 特殊な造語であるため、まずは「“魔罠”とはそもそも何か?」ということについてご説明いたします。

 第三講からこの第六講まで、おもに「文様」を題材として考察を進めてきました。そして魔術的な「文様」は、現実世界ではありえない箇所にも生成することができる、という可能性を示唆しました。そのような箇所として、水面や空気を例に上げました。

 ここから私は、「魔罠」を「空気中に魔術的な文様を描くこと」として定義したいと思います。

 このため「魔罠」は、これまでに取り扱ってきた「呪具」とは明らかに一線を画するものとなります。もはや「呪具」と呼べるかどうかも定かではありませんが、「空気中に“設置する”」という意味合いも兼ね、この第六講で取り扱うことにしました。

 以上で「魔罠」の概略は終わりです。まずは「魔罠」のメリットを考えてみましょう。

 最大のメリットは、罠にかけようと考える標的に、最後まで罠の存在を知らせずにいられることです。透明な筆で「魔罠」を設置すれば、ほぼ確実に相手に知られることはありません。また、文様は別に罠に限定しなくてもよいわけですから、用途に応じた魔罠を空気中に形成することが可能です。

 第二のメリットとして、「空気」という媒はほぼ無尽蔵に存在するということです。魔術師は魔罠を形成する際、ただ質が十分であるかどうかにのみ注意すればよいのです。

 第三のメリットとして、空間に文様を描くために、三次元的な文様を描くことが可能になります。そうすると、これまでの媒では不可能だった複雑な魔術というものが可能になります。

 しかしながら、当然空気中に文様を描くことは、そのままデメリットにもなります。風が吹いてしまって魔罠が台無しになる、という可能性がまず考えられるでしょう。そうなると当然、魔罠が設けられる箇所は密閉された空間が妥当ということになります。

 魔罠の“質”と“媒”について考えてみましょう。

 “質”についてはこれまでと同様に、「文様を描く素材」と設定することができます。

 “媒”についてはどうでしょうか。「空気」を“媒”にすることはもちろん可能です。ですが第三講の末尾で「声質と空気媒」をどう扱うかという問題が持ち上がりました。結論としては、「空気」を“媒”としてもしなくても問題はありません。しかし「魔罠」のことも含め、空気を“媒”として取り扱うと、設定がさらに面倒になります(書き手にとって重要なのは物語を淀みなく展開することであり、設定でつまずくことではありません)。

 したがって「魔罠」に限っていえば、“媒”を「無し」とすることが可能なのです。

▶ 次のページに進む

▶ 前のページに戻る

▶ 『和製ファンタジーにおける「魔法」の設定について』に戻る

▶ エッセイ等一覧に戻る

▶ ホームに戻る

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする