3.魔法の体系性と、「魔法学校」の有意義性、そして道徳面に残された課題

 次に「魔法」について考えてみましょう。

 前回「魔術」の“術”の成り立ちから考察を進めたように、今回もまた「魔法」の“法”という文字に注目して考察を進めてみたいと思います。

 漢字の成り立ちによると、”法”という字は、「流れる水」の象形、「古代裁判に用いた神獣」の象形及び「人の象形と口の象形」(「祈って人の穢れを除去する」の意味)から、「裁判に敗れて穢れた神獣を水に投じて消し去ること」を意味しており、それが転じて、「おきて・法律」を意味する「法」という漢字が成り立った、とのことです(https://okjiten.jp/kanji587.html、2019年7月13日アクセス)。

 さて、このまま「漢字の成り立ちから、『魔法』とは『超自然的なパワーに関する法律』である」と即断して話を進めてしまっても良いのですが、一旦立ち止まって、「法」という漢字が「おきて」という意味を持つことについて考えてみましょう。

 一見すると「おきて」も「法律」も同じ意味を持つように思われるかもしれません。しかし、「おきて」という概念は「法律」という概念よりも広い概念ということができます。「おきて・法律」を英語に訳してみましょう。一般的な訳語として登場するのは、”law”という単語になるはずです。

 そして”law”という単語は、二つの意味を併せ持っています。一つは当然「法律」という意味なのですが、もう一つは「法則」という意味です。例えば、「自然法則」は”a law of nature”と訳されるわけです。

 話を元に戻しましょう。上記のとおり、「法」という漢字には「おきて」という意味があります。そして「おきて」という言葉は英語で”law”に置き換えられ、”law”には「法則」という意味があります。このことから、「法」という漢字には「法律」というニュアンスと「法則」というニュアンスとが、それぞれ存在していることになると考えられます。

 このような「法」のニュアンスの差を念頭に置いた上で、まずは「魔法」の“法”が「法律」というニュアンスを指す場合を考えてみましょう。

 ”法”という漢字が持つ「法律」のニュアンスを、額面どおり「魔法」に当てはめると、「超自然的なパワーに関する法律」となります。もっと広い意味で「法律」を「超自然的なパワーを使う全ての人々が、共通して遵守しなければならない規範 」と捉えることもできそうです。

 しかし、このように「魔法」を定義したとして、果たしてその定義は、設定として有意義でしょうか。もちろん筆者は、「魔法」を「超自然的なパワーに関する法律」として設定することを否定しているわけではありません。ただし、このエッセイの目的は「役に立ちそうな和製ファンタジーの魔法の設定を考えること」及び「和製ファンタジーにおける魔法をうまく説明できるようにするためには、どのような設定が良いのか考えること」の二点にあります。筆者としては、「魔法」を「超自然的なパワーに関する法律」として設定した場合、その後には何も起こりそうにないのではないか、そこから派生して、ほかのことを説明できるわけでもなければ、役に立つ設定となり得ないのではないか、と考えてしまいます。

 そもそも「魔法」を「超自然的なパワーに関する法律」として捉えた場合、結局のところ「超自然的なパワーに関する法律」とは何を意味しているのでしょうか。「超自然的な能力を駆使する全ての人びとが遵守するべき、“超自然的な”ルール」なのでしょうか? ところで「“超自然的な”ルール」とは、果たしてルールとして成立するのでしょうか。いずれにしても、「魔法」の“法”を「法律」と解釈するのは、設定上、余り有意義でないと考えられます。

 “法”を「法律」と考えると、上記のとおり行き詰まりが発生するおそれがあるため、今度は「法則」というニュアンスから「魔法」を考えてみましょう。そして、この解釈の方が、世の中に無数にある和製ファンタジー作品の実態に良く合致していると筆者は考えます。

 「魔法」の“法”が「法則」であるということ。それはすなわち「超自然的なパワーが、体系(規則)の中に組み込まれている」ということを暗示しています。そして、「魔法が体系的」であるからこそ「学校」の範疇でカリキュラムを構成して、教授することができる――ということになるのではないでしょうか。この考えに従えば、属人的な教育を連想させる「魔術」に比べ、「魔法」の方が、体系性を有した「学校」というシステムになじみやすいのではないかとも考えられます。

 しかし、この考えの整合性を確認するためには、「魔道」という言葉についても検討する必要があります。なぜならば、「魔法」が注目しているのは、飽くまで「超自然的なパワーの体系化」のみであり、「超自然的なパワーを駆使する人びとが守るべきルール」については言及していないからです。

 少し考察を先取りしてしまいましたが、次回はこの「魔道」という言葉の意味合いを考えてみたいと思います。

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