1.4.2.マイナーな作品はメジャーになれないことの科学的証明

 この「魔力の量には個体差がある」という考え方には、しかし大きな落とし穴があります。

 そのことを、複雑系科学の視点から少し捉えてみましょう(数式などは利用しません)。

 現実世界で生きるためにハッスルしている皆さんは、うすうす「世の中は不公平である」ということは自覚していると思います。

 この“小説家になろう”というサイトの中でも、そうした不公平は一目瞭然であると思われます。とくに具体的にいえば「お気に入りの数」。中には「渾身の作品を投稿しているのに、お気に入りがまったく増えない」と不必要に悩みまくり、荒んでいってしまう書き手の方も多いのではないでしょうか。その一方で、大量のブックマークを獲得できている書き手の方もいます。

 こうした不公平の軋轢に風穴を開けたのが、小説家になろうを分析したい人先生が書かれた、『「小説家になろう」を数字からチェックしてみました』という統計分析です(http://ncode.syosetu.com/n0446bt/ 2014年2月14日閲覧)。

 ちょっとこれを参考にしてみましょう。「連載作品に関する考察(お気に入り数)」という項目から表を引用しますと、

全ての作品  : 104,639

お気に入り数 : 作品数|(全体からの比率)

10,000以上  : 125(0.12%)

5,000-9,999  : 265(0.25%)

1,000-4,999  : 1453(1.39%)

500-999    : 928(0.89%)

300-499    : 832(0.80%)

200-299    : 874(0.84%)

100-199    : 2013(1.92%)

50-99     : 2651(2.53%)

0-49     : 95498(91.26%)

http://ncode.syosetu.com/n0446bt/2/ 2014年2月14日アクセス)

 という表になっております。実に手際のよい見事なデータであり、統計で散々な思いをした私としましては、作者様の分析力の高さを羨ましく思ってしまいます。

 私見はさておき、この表を眺めたときの、書き手の感触はどのようなものなのでしょうか?

「なんだ、自分の作品もお気に入りは少ないけれども、みんな似通ったようなものなんだな、安心した」

 というような意見の人が多いのではないでしょうか? そして、心のどこかでは、

「だとしたら、まだ自分の作品が評価される可能性はあるかもしれないな」

 という希望を抱いているのではないかと思います。

 ですが、その希望は誤りです。

 そのことを今から証明したいと思います。

 まず、この表を見て「安心した」という心の動きから、どのようなことが読み取れるでしょうか? 逆に考えると、どうして今まで不安だったのでしょう?

 答えは単純です。これまでの学校教育になじんでいた人は、「平均値は真ん中に集中する」と考える人が多いためです。つまり、百点満点のテストでは六十点くらいの人が一番数が多く、満点に近い人、もしくは零点に近い人などはごく少数しかいないのです。

 そう考えるからこそ、「自分はお気に入りの数が少ない」=「ゼロ点に近い」と思い込み、むしろ表を見て安心してしまうのです。

 ですが、学校のテストと上にある表では、決定的に違います。

 ためしに上にある表の平均値を取ってみましょう。大雑把に計算すると、だいたい一つの作品あたり、百十九件のお気に入りがついていなくてはならなくなってしまうのです。これだと、九十四パーセントにあたるサンプルが根絶やしになってしまいます。学校のテストでこんなことが発生したら、教員は厳しく責任を問われます。

 上記の表から平均値を求めることは、実質上無意味です。言い換えれば、小説家になろうというサイトは、現実に存在する統計データとは無意味な世界の秩序で成り立っているということに他なりません。

 平均値の値がサンプルの実情からかけ離れてしまう――こうしたデータは「スケールフリー」の世界に属する、と考えることができます。

 スケールフリーとはすなわち、ベキ乗則に基づく世界観です。この説明だけではまったく分からないと思いますが、とにかくここではややこしい説明を一切省きます。

 突き詰めて話を進めてしまうと、とにかく、小説家になろうというサイトのコンテンツはスケールフリーの世界の掟(ベキ乗則)に従っているため、格差から逃れることは絶対にできないのです。

 ゆえに、お気に入りの少ない作品が急にお気に入りを獲得するなどということは例外中の例外であり、可能性は0に近いと考えた方が確実なのです。

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