(エリジャ様――!)
テラスに登場し、市民から歓声と祝福とを受けているエリジャの姿を、遠巻きに見つめているひとりの人物がいた。アースラである。
木の陰に身をひそめながら、アースラはエリジャに目を細めていた。この木こそ、エリジャとアースラが子どもの頃に、よく遊んでいたイチジクの木だった。
(お別れです。エリジャ様)
サウルを倒すという宿願は果たした。いまアースラは、自分がエリジャの下を離れなければならないことを、よく理解していた。ヂョゼから託された魔力が自らの中でうねり、アースラの心と身体とを、想像も及ばないようなどこかへ引きずっていこうとするのを、アースラは感じ取っていた。
(エリジャ様、わたしは果報者です。あなたと共に生きてこられたことは、わたしの誇りです。いずれあなたも、世を去るときがくるでしょう。そしてその前に、私のことをお忘れになるでしょう。ですがいつまでも、たといすべてを失って魔物になろうとも、わたしはあなたのことをお慕い申し上げます。あなたの幸せをお祈り申し上げます。だからどうぞお達者で。さようなら、さようなら――)
きびすを返すと、アースラは中庭の扉をくぐって、城を去ろうとする。扉の側には、白髪をなびかせ、白磁のような肌を持った少女が、金色の瞳で、アースラが自分の方に向かってくるのを見つめていた。