第13話:追放

「サウル様、どうぞ陛下に……エリジャ様に会わせてください!」

「出過ぎた真似はよせ、アースラ」

 咳き込みながら、内大臣のサウルがアースラを叱責する。アースラはずっとひれ伏したままだったが、事態が解決するまでは、一歩も引かないつもりでいた。

 新しい朝を迎えたばかりのバンドリカの王宮は、上へ下への大騒ぎだった。右大臣のカルフィヌスが亡くなったばかりか、エリジャ新女王が、かれを殺したと言われているのだから。

「エリジャ様がそのようなことをするなんて……! ありえません! どうかエリジャ様に会わせてください。エリジャ様の口から、真実を聞きとうございます」

「何度も言わせるな、アースラ」

 忌々しげに首を振りながら、サウルはアースラに告げた。

「いいか、エリジャ様が右大臣殿を殺めたのは、紛れもない事実。オルタンス姫と私とが、その証人である」

「では……ではせめて、オルタンス姫に会わせてください!」

「ならぬ。オルタンス殿は、今はとても人に会える状況ではないのだ。オルタンス姫のお気持ちを考えてもみよ」

「ではサウル殿、私はオルタンス様に会えるようになるまで、ここでいつまでも待ちましょう。私はエリジャ様の従者であり、王室の藩塀です。エリジャ様に会えぬ以上、ここから引き下がる訳には参りません」

「アースラ、貴様……!」

 それまでいっこうに目を合わせようとしなかったサウルが、はじめてアースラに視線をそそいだ。その瞳は、憎悪の光で赤く燃えさかっている。

「私の言うことをあくまで信じようとしないつもりだな? よろしい! エリジャ姫が人殺しならば、お前もまた人殺しの従者だ」

「――そのようなことは断じてございません!」

 手のひらに爪が食い込むほど、アースラは拳を強く握りしめる。

「エリジャ様に対する数々の暴言、それでもあなたは内大臣を名乗るおつもりか!」

「黙れ! もはやエリジャは王ではあるまい。単なる人殺しだ。エリジャにも貴様にも、この王宮に居場所などありはせん。とっとと失せろ――!」

 このときアースラは、もうほとんど剣の柄に手を掛けているところだった。しかし彼女が身じろぎするよりも、近衛兵が彼女を捕まえる方が早い。

「は、離せっ――!」

「衛兵! 王宮から、この雌犬を追い出すのだ!」

 アースラは必死になってもがいたが、多勢に無勢だった。ようやく衛兵たちが手を離したときにはもう、アースラはすでに王宮の裏手、残飯などが搬出される外通路に放り出されていた。

「ハァ、ハァ――」

 肩で息をしながら、アースラは何とか立ち上がろうとする。残飯のすえた臭いが、アースラの鼻に押し寄せた。数刻もしないうちに、残飯の臭いが体中に染みてきそうだった。

(はやくここを離れよう――)

 鼻を押さえつつ、アースラはその場から駆けだした。

(エリジャ様を――エリジャ様を助けないと……!)

 アースラが向かう先は、左大臣・カシムの邸宅だった。

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