「着いた! ――ああ、これは……酷い」
寺院の門をくぐったエバが、入るなり顔をそむけた。敷地のあちこちに、羽の生えた異形と、僧兵とが入り乱れて死んでいた。
「……大丈夫、エバ? ムリしないで」
「気にしないで、ヒスイ。あたしは大丈夫」
エバはかぶりを振ると、砂利に刺さっていた自分の箒を抜いた。
「箒は無事?」
「うーん。折れちゃいないけど、ちょっと曲がってる、かな? これだと、あんまり高くは飛べないかも……」
「そう……」
「――とにかく、寺院の中に行こう、セフがいるとしたら、そこしかいないから」
「待って、エバ。もしかして、しらみつぶしに探すつもり?」
「それは――」
エバは肩を落とした。
「ゴメン、そこまで考えてなかった。でも、セフがそうカンタンに逃げるとは思えないんだよね。あの子、正義感強いから」
そこまで言われて、ヒスイはふとさっき見たイメージを思い出した。
「ねえ、そのセフって子、私より背が低いわよね?」
「ええ。小柄かな?」
「……黒いおかっぱ髪に、黒い瞳の子でしょ?」
「うん。――って、ヒスイ、もしかして記憶が戻ってきた?」
「いや、そうじゃないんだけど……。この銃、」
ヒスイは、エバに銃を掲げてみせた。
「握っていると、イメージが湧くのよ。たぶん未来を予知している……みたいな」
「ホント? へー。そんなこと初めて聞いたかも」
「そうなんだ……ゴメン」
「いや、いや、いいって。んで、セフは何処にいたの?」
「薄暗い部屋よ。天井は高くて……丸い形をしていたわ」
「天井が高い……丸い形……。――あっ、分かった!」
エバが目を輝かせ、寺院の後部にある建物を指差した。
「あそこよ! きっとあそこのお堂の中だわ! 行きましょ、ヒスイ!」
「分かった」
砂利を踏み抜きながら、二人は堂を目指して駆け出した。
◇◇◇
「ここだよ!」
堂を目の前にして、エバが叫んだ。堂の鉄扉は固く閉ざされ、不気味なまでに沈黙していた。
ヒスイは嫌な予感がした。
「入ろう、ヒスイ! ――ヒスイ?」
「エバ、いつでも飛べるように準備しといて」
「飛ぶ? お堂の中で」
「そう、」
銃を引き抜くと、ヒスイは堂の扉までにじり寄る。
「すごい嫌な予感がする。――何かあったら、上から援護して欲しい」
「分かったわ。――でもさ、ヒスイ」
「何?」
「どうせやるんだったら、一気に決めましょう」
「一気に?」
「そ。扉をぶち抜くのよ」
「『ぶち抜く』って、どうやって――?」
「あたしに任せて!」
言うなり、エバは扉に迫ると、チョークで扉に図形を描き始めた。宮殿で見た図形とは違う、これまた複雑な魔法陣だった。
「よし、完成!」
両手を突き出して、エバが気合を込める。
「いくよ、ヒスイ! すぐ中に入って」
「分かった!」
「――はあっ!」
エバが両手で鉄扉を叩いた。鉄扉に描かれた魔法陣が発光するのを、一瞬だけヒスイの目も捉えた。次の瞬間には、鉄扉は粉々に吹き飛び、堂内の中空を舞っていた。
「葉――!」
ヒスイの後ろから、エバの声が響いてきた。