第7話:嵐の前の静けさ

「着いた! ――ああ、これは……酷い」

 寺院の門をくぐったエバが、入るなり顔をそむけた。敷地のあちこちに、羽の生えた異形と、僧兵とが入り乱れて死んでいた。

「……大丈夫、エバ? ムリしないで」

「気にしないで、ヒスイ。あたしは大丈夫」

 エバはかぶりを振ると、砂利に刺さっていた自分の箒を抜いた。

「箒は無事?」

「うーん。折れちゃいないけど、ちょっと曲がってる、かな? これだと、あんまり高くは飛べないかも……」

「そう……」

「――とにかく、寺院の中に行こう、セフがいるとしたら、そこしかいないから」

「待って、エバ。もしかして、しらみつぶしに探すつもり?」

「それは――」

 エバは肩を落とした。

「ゴメン、そこまで考えてなかった。でも、セフがそうカンタンに逃げるとは思えないんだよね。あの子、正義感強いから」

 そこまで言われて、ヒスイはふとさっき見たイメージを思い出した。

「ねえ、そのセフって子、私より背が低いわよね?」

「ええ。小柄かな?」

「……黒いおかっぱ髪に、黒い瞳の子でしょ?」

「うん。――って、ヒスイ、もしかして記憶が戻ってきた?」

「いや、そうじゃないんだけど……。この銃、」

 ヒスイは、エバに銃を掲げてみせた。

「握っていると、イメージが湧くのよ。たぶん未来を予知している……みたいな」

「ホント? へー。そんなこと初めて聞いたかも」

「そうなんだ……ゴメン」

「いや、いや、いいって。んで、セフは何処にいたの?」

「薄暗い部屋よ。天井は高くて……丸い形をしていたわ」

「天井が高い……丸い形……。――あっ、分かった!」

 エバが目を輝かせ、寺院の後部にある建物を指差した。

「あそこよ! きっとあそこのお堂の中だわ! 行きましょ、ヒスイ!」

「分かった」

 砂利を踏み抜きながら、二人は堂を目指して駆け出した。


◇◇◇

「ここだよ!」

 堂を目の前にして、エバが叫んだ。堂の鉄扉は固く閉ざされ、不気味なまでに沈黙していた。

 ヒスイは嫌な予感がした。

「入ろう、ヒスイ! ――ヒスイ?」

「エバ、いつでも飛べるように準備しといて」

「飛ぶ? お堂の中で」

「そう、」

 銃を引き抜くと、ヒスイは堂の扉までにじり寄る。

「すごい嫌な予感がする。――何かあったら、上から援護して欲しい」

「分かったわ。――でもさ、ヒスイ」

「何?」

「どうせやるんだったら、一気に決めましょう」

「一気に?」

「そ。扉をぶち抜くのよ」

「『ぶち抜く』って、どうやって――?」

「あたしに任せて!」

 言うなり、エバは扉に迫ると、チョークで扉に図形を描き始めた。宮殿で見た図形とは違う、これまた複雑な魔法陣だった。

「よし、完成!」

 両手を突き出して、エバが気合を込める。

「いくよ、ヒスイ! すぐ中に入って」

「分かった!」

「――はあっ!」

 エバが両手で鉄扉を叩いた。鉄扉に描かれた魔法陣が発光するのを、一瞬だけヒスイの目も捉えた。次の瞬間には、鉄扉は粉々に吹き飛び、堂内の中空を舞っていた。

セフ――!」

 ヒスイの後ろから、エバの声が響いてきた。

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