第6話:爛れた街

「着いたッ!」

 ヒスイの前方で、エバがどなる。

 今、ヒスイはエバの操る箒の後ろに乗り、泰日楼テイロスへ肉薄するさなかだった。

「行くよ、ヒスイ! 上に飛ぶから、掴まって!」

「分かった――!」

 森を抜けるやいなや、エバの箒が急上昇をはじめる。上昇すればするだけ、降りかかってくる火の粉の量も激しくなる。

「見て、あれ――」

 ヒスイの目が、黒煙の奥に飛び交うものを捕らえた。それを見て、エバもぎょっとする。

「あれは……何?」

「分かんない。エバ、気をつけて!」

「もちろん! ヒスイも援護お願い!」

「任せて――」

 ヒスイはホルスターから銃を引き抜いた。その瞬間、ヒスイの脳内にイメージが流れ込んでくる。

――薄暗い建物の中で、息も絶え絶えになっている老人の影像だった。

――よろめいた彼に少女が手を貸すが、少女の手が老人に触れた途端、彼の体が灰になってしまうのだった。

「ヒスイ、あそこだよ!」

 エバに呼び掛けられ、ヒスイの脳裡でイメージが途絶える。

「どこ――?!」

「あっち! あそこの寺院にセフがいるはず!」

 ヒスイが目を向けた先には、寺院の建物が見える。街でもひときわ敷地が広いためか、まだ火の手は回っていない様子だ。

「行くよ!」

「分かった――」

 そう告げた途端、ヒスイの第六感が後ろから迫る脅威を知らせる。ほとんど無意識に、ヒスイは後ろに向かって引き金を引く。

 引き金を引いたのと、ヒスイが後ろを確認したのとでは、いったいどちらが速いだろうか? ――火の中を突き抜け、猛然と迫ってくる異形に向かって、ヒスイの銃撃がほとばしった。

 二発の銃撃は異形の羽をもぎ取ったが、それでも二人の乗る箒に食いつこうとする。

「うっ、くそッ――!」

 怪物の死に物狂いの体当たりが、箒をエバの魔力から解き放った。主を失った箒は、暴れ馬のようになって空中を跳ねまわる。

「くっそー、言うこと聞け――ッ!」

「エバ、掴まって――!」

「えっ?! ちょっ、ヒスイ――」

 エバの胴体に腕を回すと、ヒスイはそのまま箒から飛び出した。箒は放物線を描きながら、寺院めがけて墜落していく。

 宙に放り出された二人。ヒスイは建物の一つを狙い済まして、一発。銃撃で剥がれた看板は横倒しになると、建物と建物の間に即席の橋を作る。二人はその上に転がりこんだ。そして転がりこんだ衝撃で、看板は通路に向かって崩れ落ち、二人は滑り降りて、通路へと降り立った。

「――どう、エバ?」

「ハァ……ハァ……! し、死ぬかと思った――もう!」

 たわむれに、エバはヒスイの背中を叩く。

「ホント、暑すぎてヒスイの気が違っちゃったのかと思ったわ」

「ゴメンね、エバ。でも、『行けるんじゃないか』、って思ったのよ」

 ヒスイの言葉に、エバは小さく笑みをこぼした。

「なんだかそれ、ヒスイっぽい」

「――私っぽい?」

「そ。決めるべきところで、ガッツリと決めてくる感じ。いいな、ホント、かっこいいもん」

「そう? なんだか……照れるかな?」

「フフフ。……さぁ、行きましょ、ヒスイ! 寺院に行かないと!」

「ええ!」

 火の手の回ってない路地を通りつつ、二人は寺院へと駆け出した。

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