1.「宇宙人の陰謀」説

 ジョージ・サイードマン事件には、今もって謎の部分が多い。憶測は様々飛び交っているが、その中でも特に興味深いと思われる説を三つ紹介しよう。

(1)宇宙人の陰謀説

 新聞、及び各種のゴシップ誌が「ジョージ・サイードマン事件」を取り扱うようになった際に、真っ先に上がった仮説がこの「宇宙人の陰謀説」である。

 折りしもこの頃は、多数のオカルト誌で盛んに「エリア51」についての流説が飛び交っており、加えて「宇宙人と邂逅した」と述べる民間人も多数出没した。

 ではこのような社会現象が、いったいどのように「ジョージ・サイードマン事件」に繫がるのか?

 ――答えを見つけるヒントは、『インセクトアンドテクノロジー』を刊行していたペール・プレス社にあった。

 雑誌・印刷および広告業界で広く商品を提供していたペール・プレス社は、「ジョージ・サイードマン事件」の数年前から宇宙人やオカルト、SFに関する流説を紹介した『スターダストインスペクター』という雑誌を発行していた。その雑誌の中で一度、宇宙人と民間人とが出くわした数々の記録を特集した「未知との遭遇」シリーズがリリースされたことがある。

 第四回目の特集では、アラバマ州の農村に住むハワード一家が、「巨大なナナフシにトンボの翅がくっついたような」奇怪な宇宙人と接触したということが記事となっていた。そしてジョージ・サイードマンが投稿した論文の中にも、ナナフシの身体にトンボの翅を移植するという実験が掲載されていたのである。

 このことに端を発したオカルトマニアの意見はこうである。

 ハワード一家が遭遇した宇宙人は紛れも無い本物であり、正体が露見することを恐れた宇宙人たちがその科学力を応用して、まずい情報を世間に流布しかねない『スターダストインスペクター』を、発行元のペール・プレス社もろとも抹殺しに掛かったのである、と。

 SFの重大問題をオカルトと上手く結びつけたこの推論は見事ではあるが、しかし穴がある。もし本当に宇宙人がジョージ・サイードマンを名乗って偽者の論文を投稿したとするのなら、どうして彼らはわざわざ自分たちの存在を連想させるような、ナナフシとトンボを研究材料に選んだのであろうか。結局この説も有力なものとは言えず、熱狂的なオカルトマニア達が作り上げた希望的観測と言った方が正しいのかもしれない。

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