4.自分が「書きたい」と思う作品を書くこと

 それは、「自分が本当に書きたいと思った作品を書くこと」です。

――……

 「何を当たり前のことを」と思う人がいるかもしれません。しかしそう考える前に、一旦ウェブから離れ、政策の領域を例にとって考えてみましょう。

 日本においては近年、地域間格差が大きな問題となっています。政策に興味の無い方もおられるかもしれませんが、たとえば「東京一極集中」というキーワードや、安倍政権の唱える「地方創生」といったキーワードを耳にした方はいるはずです。

 地方における格差もまた、パレート分布に従ったものと考えることができます。「新しい地域発展論」を唱えた丸田一氏の意見を参考に、この問題を考えてみましょう。

 丸田氏ははじめに、「都市人口は構造的に決定されている(パレート分布のような分布に従っている)」と主張した上で、「地域間格差は必然的」であり、「格差の是正は全体秩序を破壊するおそれ」も存在すると述べています。

 「小説家になろう」で置き換えて考えてみれば、「ブックマークの格差は必然的であり、それを矯正しようとするのは適切な処置ではない」ということになります。「いまの格差を放っておけとでもいうのか」という意見が飛んできそうですが、パレート分布の適応できる構造体は、全体の比と部分の比が一致するという特徴を備えています。従って、いかに底辺に存在する作品がブックマークを水増ししたとしても、それに見合った分だけ傑出した作品が登場してきてしまうのです。

「では、ブックマークを水増しするのではなく、標準化する策をとってみてはどうか」

 という意見も出るかもしれません。しかしながら、「飛びぬけてブックマークが多い作品を、ブックマークの少ない無数の作品が支えている」という事実を見落としてはいけません。それこそ丸田氏が指摘している通り、「格差の是正により全体秩序が破壊されてしまう」可能性が存在するためです。

 地域間格差についての話題に戻りましょう。「地域が発展するためにはどうすればいいか?」という問いに対し、丸田氏は「外向きの関心ではなく、内向きの関心に基づくこと」、つまり「自前主義」の重要性を主張しています。

 いわく、「地域間格差を広げている最大の原因は、無自覚に他者へ依存している地域の意識そのものである。不平等は『格差』ではなく『個性』であるという自覚を持ち、何でもまず自力でやってみるという意識を持つことが、地域にとって大切だ」とのことです。

 この地域発展論を「小説家になろう」に持ち込んでみた場合、最大の論点となるのは「ブックマークの格差」ではありません。むしろ「ブックマークの大小」を「格差」と捉えてしまう書き手と読み手の意識のほうを検討しなくてはならないのです。

 特に問題とすべきなのは、もっとも主体的に活動しうる書き手の動向です。すでにブックマークの多い作品を抱えている書き手の方は除外するとして、それ以外の書き手の方は、概ね以下の二つに分類されると思います。

 ①「小説家になろう」の主流ではない作品を一貫して書き続けている書き手。

 ②当初は①だったが、ブックマークや人気等を目当てにして主流の方角へ傾きつつある書き手。

 地域間格差の話題に照らして考えてみれば、問題となるのは①ではなく、②の態度を持っている書き手の方だということが分かります。意識的であるにせよ、そうでないにせよ、このタイプの書き手は不利益を蒙ることになります。

 それは、知らず知らずの内にパレート分布の強化に加担してしまっていることです。格差の上位に立とうとするあまり、格差を広げてしまうことになるからです。

「格差が広がろうが、そんなことは私の知ったことではない。自分の作品のブックマークが多くなればそれでいいのだから」

 とお考えの方は、もう一度このテキストを注意深くご覧ください。パレート分布は、全体の比と部分の比が一致するという特徴を持っています。つまり、「小説家になろう」で主流を占めているだろう「異世界」、「チート」、「ハーレム」のジャンルにおいても、この格差の分布は横たわっていることになるのです(実際に上記のタグをつけていても、ブックマークが伸びなかった方もおられると思います)。

 なるほど「異世界」等のタグもパレート分布に従うでしょうから、集客力の高いタグを作品に多く貼り付ければ、作品の人気が出るかもしれません。しかし、突出したブックマークを稼ぐために、安易に主流に乗っかろうとするのは危険な行為であると私は考えます。

 では改めて、個々の書き手は何ができるのか? ――ここで「自分が本当に書きたいと思った作品を書くこと」という、上記に掲げた結論の真の意味が明らかになるのです。ブックマークや評価といった「外向きの関心」に頼るのではなく、「自分自身が納得のいく作品作りができたかどうか」という「内向きの関心」に頼る方が、実はもっとも良い結果が得られるわけです。

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