9.2.具体的な“印”のあり方

 次に、具体的な印はどのように発展してゆくのかについて考えてみましょう。

 このテキストにおける大前提として、「“魔法”は中世西洋をモチーフにした和製ファンタジー世界における概念である」ということが挙げられていました。したがって魔力を発現させるための手段は印のほかにも呪文や文様などがあり、決して印だけが有効な手段ではない、ということが分かります。

 こうした事情を背景にして考えてみると、前回考えた三つの印の特徴は、印の使い道を大きく限定します。特に第二・第三の特徴については上位互換として「呪文」、「文様」が存在するため、必然的に「印」は第一の特徴を前面に打ち出した魔法として効力を発揮することになります。

 前回第一の特徴として挙げたことは、「印を結ぶ、という行為は比較的原始的な行為である」ということでした。裏を返せば、魔力を有する魔法使いにとって、印というのはとっさに使いやすい魔術になるはずです。指を結び、手を組むだけで効力が発現するのならば、たとえ効果が微々たるものであっても、それを速さでカバーすることが可能になるはずです。

 そうなると、印は必然的に「手足を拘束している縄を解く」とか、「煙に身を包んで身を隠す」といった、まさしく忍者らしい緊急回避的な小技の数々が発達することになると考えられるでしょう(あくまで“考えられうる”設定ですので、書き手はこの考えに束縛される必要はありません)。

 では、そうした小技の数々を発動するためには、どのような印の組み方が考えられるでしょうか。

 ここでまず、単純に指だけのことを考えて話を進めましょう。2014年4月5日現在、地球上に住む人類の大半は手を二本持ち、それぞれの手に指を五本つけています(便宜上、足の指は考慮しません)。そしておそらく、指が取れる行動といったら「まげる」か「のばす」の二択しかありえないと考えられます。

 片手にある5本の指をそれぞれ区別して考えると、合計で2^5-2=30通りのパターンが考えられます(すべての指をまげる/のばすの場合は考慮していません)。両手にある10本の指をすべて区別すると、2^10-2=1022通りものパターンを作ることができます(ここでも、すべての指をまげる/のばすの場合は考慮していません)。指を「まげる」か「のばす」かだけでこれだけのパターンが作れますから、手の組み合わせ方次第ではより多くの印を作ることができるはずです。

 では、1022通りに及ぶ魔術を、「印」が担うことは可能でしょうか? 個人的には、これは不可能なことであると考えます。おそらく、親指から中指までの三本の指は、比較的容易に曲げ伸ばしができます。しかし、薬指と小指とを自在に曲げたりできる人間はいないのではないでしょうか。

 そうなると、曲げ伸ばしのできる指は両手にあるそれぞれの親指、人差し指、中指だけと見なし、そこから印を構成することのほうが現実的です。計6本の指をそれぞれ区別した場合、2^6-2=62通りのパターンを考えることができます。これだけの数があれば、一通りの小技を仕込むことはかなり容易ではないでしょうか。指の曲げ伸ばしに、手の組み方を重ね合わせれば、ある程度柔軟な「印」の魔術を構成することができるはずです。

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