具体的にどんな素材が、どんな魔術で利用されるのかについては書き手の裁量に委ねられますので、ここでは考察しません。ただ前回において「本草学」=「素材の扱いについて学ぶこと」である以上、扱い方の原義的な内訳については確認してみる必要があるでしょう。少なくとも考えられる項目は全部で4つ。すなわち、
①ある素材はどの魔術で利用できるか?
②ある素材はどの魔術で利用すべきか?
③保管・管理はどのようになされるべきか?
④ある素材はどこで/どのようにして入手可能か?
の項目について最低でも学術書に記載されていなくてはなりません。以下、それぞれの項目について個別に考えてみましょう。
①ある素材はどの魔術で利用できるか?
これが「本草学」における最も基本的な問いであることは、疑いの余地がありません。魔法使いが有している素材が本当に有意義に使われるためには、まずどの魔術で利用できるのかを最低限でもおさえておく必要があります。
そしておそらくは「ある素材はどの魔術で利用できるか?」を調べるよりも「この魔術で利用できない素材は○○だ」という問いのほうが、おそらくは効率的であり、また実践的でもあるでしょう。
②ある素材はどの魔術で利用すべきか?
ですが、とうぜん魔術においても効率性は重視されるべき問題だと思います。この場合の効率性とは、「最大の威力を魔術に備えさせる素材」、「魔術の発動をもっとも廉価に行える身近な素材」、の二種類の用件のうちいずれか(もしくは両方)を満たしている必要があります。
これら①、②のことを考えると、「本草学」で魔法使いが学ぶ知識は、おおむね二種類に絞られると思います。一種類目が「ある魔術で利用できない(失効してしまう。もしくは悪影響を及ぼす)素材」について、二種類目が「ある魔術を利用する際に必要な、もっとも手軽に調達できる素材」についてです。
③保管・管理はどのようになされるべきか?
カルシウムという金属があります。元素番号は20。アルカリ土類金属の一つで、大理石や石膏、骨などに含まれている素材として我々に馴染み深いものです。
金属ではありますが非常に軟らかく、カッターナイフで簡単に切れます(定規を包丁のようにして切ることもできます)。
ですが、このカルシウムは空気中で非常に不安定な金属です。さんざんカルシウムを切りまくって遊んだ翌日、目を覚ましてみたら忽然と姿を消していたという苦い記憶が筆者にはあります(私は学校の実験室に忍び込んではこっそりとヘンなものを持って帰るクソガキでした。ちなみにもう時効です)。
魔術を発動させる素材に、こんなカルシウムのようなものを利用するかどうかは謎ですが、やはり「保管・管理はどのようになされるべきか?」ということを項目として取り上げておくほうが、ストーリーを構築する上でさまざまなメリットを書き手にもたらすでしょう。
④ある素材はどこで/どのようにして入手可能か?
この項目もやはり、ストーリーを構築する上でのメリットになります。日常的に入手できる素材、たとえば「マツの木炭」とかならば、マツを伐採して炭に焼いてもらえば簡単ですが、「ドラゴンの胆石」とかいう魔術的なアイテムをこの項目に組み込んでおけば、それを入手するためのストーリーなどを組み入れることが可能です。