6.4.織布

 「魔法のじゅうたん」あるいは「空飛ぶじゅうたん」といったアイテムは、ファンタジー世界を代用するアイテムの一つです。あまりにも使われすぎるために、手垢がついた印象も否めません。

 この「空飛ぶじゅうたん」というのも考察の対象としてはかなり面白いものとなります。箒で空を飛べるのが“魔女”に限定される一方、“じゅうたん”で空を飛ぶという行為では、特に乗り手が魔法使いである必要が無いからです。

 話が脇にそれました。今回はそんな「織布」と文様との関係性を探ってみたいと思います。

 まずは「織布」が有する魔術の効能について考えてみましょう。前述した「空飛ぶ魔法のじゅうたん」以外にも「透明マント」や「正直者にしか見ることのできない衣装」などが候補として挙げられます。その最大の利点としては、着脱可能性が挙げられるでしょう。また、布という性質上保管しやすく、折りたたむこともできるため移送などにも利便性が高いです。

 布に魔術の効能を施す場合、どのような文様の形式が考えられるでしょうか。可能性としては三つあげられます。一つ目が「染める」、二つ目が「刺繍する」、そして三つ目が「織る」という方式です。

 まずは一つ目の「染める」について。この場合、染めるときに利用する染料が“質”、染められる織布が“媒”と推定することができます。

 しかしながら、絞り染めの技法を応用してより複雑な「織布」を製作することも可能です。すなわち、文様となる部分を無地のまま残しておいて、それ以外の箇所を染料で染めてしまうのです。こうすれば“質”を設定することなく文様が描けてしまうため、利点は「杖(狭義)」や「仮面」の“彫刻する”という技術に匹敵します。

 次に二つ目の「刺繍する」について。あらかじめ仕込んでおいた刺繍を「織布」に縫い付けることによって、魔術的な効能を獲得しようとする方式です。

刺繍を利用することの最大の利点として、「取り外しが比較的容易」ということがあげられます。丈夫な布地が一つ用意できれば、刺繍次第で「空飛ぶじゅうたん」にも「透明マント」にも用途の変更が可能です。

刺繍を利用した際の“質”は「刺繍糸」、“媒”は「刺繍糸を縫い付けたワッペン」とすることができます。

 最後に「織る」について。「織布」を完成させる段階で、文様をその中に織り込んでしまうのです。

 縦糸と横糸を精密に計算して、描きたい文様を着実に実現するという点では、上記の二つより時間と手間がはるかにかかります。しかしながら、精緻な文様を描くという点に関しては、おそらくこの方式がもっとも妥当なのではないかと思います。

 くわえて、“質”と“媒”の両方が折り重なって文様を形成するため、やはり「杖(狭義)」や「仮面」の“彫刻する”という利点と同程度の効用を獲得することができます。

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