口唱呪文についての考察は前講で終了しました。続いて記述呪文(文様)の問題へ移ってゆきます。
そもそも、どうして同じ魔法言語に属するものを、わざわざ「口唱」と「記述」に分割する必要があるのか。これについて説明します。
「記述」というアウトプットの方式には、必ず「媒体」が存在していなくてはならないということが、この問題の背景にあるのです。
「書く」というアウトプットを行うためには、書くための素材(鉛筆やペンなど)と、文字が書かれる媒体(紙、壁の表面など)が必要になるはずです。
以降は、書くための素材を「質」、文字が書かれる媒体を「媒」として話を進めていきます。
質・媒が存在するということは、その状態が魔術の発動に少なからず影響する、ということを示唆しています。たとえば、ある魔法陣Mを壁(媒)に書き付けるときには、必ず蜂蜜をこねて作ったクレヨン(質)でなくてはならない、などといった作法があるはずです。これは「書き付ける」という行為を通じて呪文を発動する以上、必ずつきまとう問題になります。