1.2.3.「見えざる神」の理論体系

 問題は「理論武装が崩壊したこと」にあるのではありません。むしろ、「これまでの理論武装を崩壊させうるような新理論が登場したこと」にあります。

 われわれの世界では、それまでの科学理論を覆すような新しい科学理論が生じても(パラダイム・シフトなど)、いままで利用してきた科学技術が途端に使えなくなってしまう、などということはないはずです。

 ですが、「天賦型」の魔法を世界設定にすえると、ある日突然魔法が使えなくなる、ということが現実味を帯びてきます。

 再び、テレポーテーションの例に戻りましょう。テレポーテーションは「異なる次元を経由して場所を瞬間移動することだ」と魔法使いたちは信じこんでいます。そもそも「テレポーテーション」の魔法は超自然的な存在から「瞬間移動の術」として与えられたものなので、いちど誰かが皆を納得させるような理論を作ってしまったら、とくにそのことに疑問を差し挟もうとする人はいないはずです。

 しかし実際は1.2.2.で記述したとおり、「次元」=「座標の数」ではありませんでした。自分達の作った理論は間違いだ、しかし超自然的な存在から与えられた「瞬間移動の術」は普通に利用できる。――この真実を魔法使いが発見したとき、彼らはそれまで普通に利用してきたテレポーテーションを、再び安心して利用することができるでしょうか?

「魔法使い達が作り出した理屈は、神が作り出した理屈とは程遠いものだった。だとすると、このままの調子で魔法を使い続けていたら、いつか不都合が生じてしまうのではないだろうか?」

 と、魔法使いたちは考えるようになってしまうのではないでしょうか?

 彼らが安心して今後テレポーテーションを利用して行くためには、どうすればいいでしょうか。最も確かな方法としては、超自然的な存在(神様とします)が魔法使いのために、気を利かせて新理論をあらかじめ準備しておいてあげることです。

 ですが、神様が作ったような理論体系を、魔法使いが現実の体系で利用することなど可能なのでしょうか?

 ここで私が問題にしているのは「意識の拡張」に連なる人間の認識範囲の限界についてです。

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