『水玉』

「見なさい、男子諸君。私が今日穿いているパンツは水玉だ」

 学級委員の女子が教壇に立つと、衆人環視の中でいきなりスカートをたくしあげた。

 受験勉強の苦しみが、彼女をこのような凶行に駆り立てたのだろう。

 唯一残念なことは、水玉もクソもなく、彼女がパンツを穿いていなかったことにある。

 クラス中が凍りついた。教室に入りかけていた世界史の長岡先生が、持っていた資料集を取り落とす。

 そんな中で、僕は机に頬杖をつきながら、窓の向こう側を眺めていた。校庭ではサッカーの授業中で、ボールをめぐって多くの生徒が散り散りになっている。

 あいにく僕は目が悪いため、そんな生徒の一人一人が誰なのかは判別できない。

 思うに、人間というものは水玉のようなものなのではないだろうか。色合いは均質であり、べったりしていては判別することができない。しかし、白い背景が色を玉状に区切ってくれることで、はじめて模様としての個性がでてくるのではないだろうか。

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