「『陛下のしもべです』か……」
オルタンスと別れてから、アースラは自分の言葉を反芻した。
エリジャは、もはや王女ではない。だから、アースラがエリジャ女王のしもべであることは間違いない。
それでも、いや、それだからこそ、アースラはその事実にひるんでしまった。エリジャは王女ではなくなった。だから、アースラが気軽に話しかけられる存在でもなくなった。ふざけあったり、笑いあったり、そんなこともできなくなる。
そしていずれ、エリジャは自分のことを忘れてしまうだろう。アースラの心の内側を、つめたいものが走る。エリジャは間違いなく、自分を忘れる。これから先、エリジャは自分の父親以上の貴族たちと、国政について議論を交わし、外国の大使と渡り合い、ゆくゆくは王国の名門貴族か、あるいは海外の王族と婚約することになる。それが女王というものの生き方だからだ。
そんなエリジャの生活に、アースラが入るすき間などない。
「あぁ……」
柱の陰にもたれかかると、アースラはうつむいた。これから待つだろう孤独に、脚がすくむ思いだった。
アースラのいる階の下では、侍従たちが忙しく駆け回り、遅すぎる晩餐会の準備をしていた。