第5話:記憶の彼岸

「『陛下のしもべです』か……」

 オルタンスと別れてから、アースラは自分の言葉を反芻した。

 エリジャは、もはや王女ではない。だから、アースラがエリジャ女王のしもべであることは間違いない。

 それでも、いや、それだからこそ、アースラはその事実にひるんでしまった。エリジャは王女ではなくなった。だから、アースラが気軽に話しかけられる存在でもなくなった。ふざけあったり、笑いあったり、そんなこともできなくなる。

 そしていずれ、エリジャは自分のことを忘れてしまうだろう。アースラの心の内側を、つめたいものが走る。エリジャは間違いなく、自分を忘れる。これから先、エリジャは自分の父親以上の貴族たちと、国政について議論を交わし、外国の大使と渡り合い、ゆくゆくは王国の名門貴族か、あるいは海外の王族と婚約することになる。それが女王というものの生き方だからだ。

 そんなエリジャの生活に、アースラが入るすき間などない。

「あぁ……」

 柱の陰にもたれかかると、アースラはうつむいた。これから待つだろう孤独に、脚がすくむ思いだった。

 アースラのいる階の下では、侍従たちが忙しく駆け回り、遅すぎる晩餐会の準備をしていた。

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