第4話:選ばれし者

「ハァ、ハァ――ははっ」

 安堵のためか、エバが笑みを零した。

「ははっ、ヒスイ、最高じゃない? もうホント、カォってカンジ」

カォ?」

「そうよ。好好カォカォ

 言いながら、二人は互いに笑いあう。

「よかった。ホント良かったわ。ねぇヒスイ、記憶が無いのはホント? あたしをからかっているんじゃなくて?」

「本当のことよ、エバ」

「なんかもう、信じられないよ。だって全然変わってないもん。動きもキレッキレだったし」

 ヒスイ自身も、その自覚はあった。考えるより先に、体が勝手に、それも反射的に動いているのだ。だから、途中で我に返ってしまわないか、今のヒスイには心配だった。

「たまたまよ、あんなの」

「そう……そうかもね……」

「エバ……?」

 今度の部屋には、照明がなかった。それがために、エバの表情をヒスイは汲み取れない。しかし声の様子からして、エバは涙ぐんでいるようだった。

「エバ、もしかして泣いてる?」

「ううん。平気よ」

「ごめんね、私が頼りないせいで――」

「もう、平気だってば、ヒスイのせいじゃないって!」

 エバが指を鳴らす。エバの指先から火花が飛び散り、できた小さな火球が、周囲を明るく照らした。その火球を、エバは自分の顔の側まで持ってくる。

「ほら、泣いてないでしょ、あたし!」

「うん……」

「――それでね、ヒスイ。ヒスイにいくつか言っておかなくちゃいけないことがあるの。ホントはこんなこと言うの、今のタイミングじゃないような気がするんだけど、でもヒスイ記憶が無いわけだし――たぶんヒスイのこと良く分かっているの、あたしぐらいなもんだと思うし――」

「それ、実は私も聞きたかったのよ。ねぇエバ、私の家族はどうしてるか、分かる?」

 ヒスイの質問に、エバがぽかんと口を開いた。

「……ゴメン、なんか私、ヘンなこと聞いちゃった?」

「ううん、全然よ、ぜんぜん。ただ……その……ヒスイには、家族はいない、かな? 今のところ」

「――”今のところ”?」

「えっとね、えっとね、話すと長くなるのよ?」

 エバは慌てふためいていた。そんなエバを見て、ヒスイは腕を組む。

「長くても構わないわ。少しでも、いろんなことを教えて欲しい」

「そうよね。わかった、話す。……その前に、一つだけ先に質問させて?」

「いいわ」

「ヒスイは……人の運命を変えられる、って思う?」

「人の運命? 人の運命を、私が?」

 エバは黙って頷いた。唐突な質問に、ヒスイは答えあぐねる。

「抽象的すぎて、分からないわ」

「それでもいいから! ――はいか、いいえかで答えて!」

「――”はい”、よ。もしそんなことができるのならね」

「できるわよ。だってヒスイ、あなたは……”選ばれた者”なんですもの」

「”選ばれた者”?」

「ヒスイ……あなたは勇者の娘なのよ」

 エバの手で踊る火球が、一瞬だけほのめいた。

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