第五講でも、引き続き「文様」に関連した話題を考察してゆきたいと思います。今回は「彫る」という行為を通じて人間の身体を媒とする「刺青」について焦点を絞ってゆきます。
まずは、刺青における基本についてここで確認しておきましょう。文様の項目で執拗なほどに考察した「質」と「媒」は、どの程度までこの刺青にも該当するでしょうか。
最初に、「質」について考察してみましょう。第三講で行った議論において、「質」とは「文様を書き付けるための道具」でした。こうした「質」の概念を刺青に当てはめると、おそらくは刺青に利用される「インク」こそが重要な「質」となるのではないでしょうか。
続いて「媒」について。これは「刺青」にのみ当てはまる特殊な事項ですが、この場合における「媒」は人間の身体(とりわけ人間の皮膚)に限定されます(改めて根拠を説明するまでもないことと思います)。
したがって、第五講においてはもっぱら「質」を「インク」、「媒」を「人間の皮膚」と限定して話を進めてゆきたいと思います。